2013年1月29日火曜日

甘美な「クラブハリエ」の世界へ潜入

1月某日。
普段よりめかしこんでいそいそと出かけた「マンダリン オリエンタル ホテル 東京」。世界初の“六つ星ホテル”と称えられる、世界屈指のラグジュアリーホテルだ。星は三つ、もしくは五つが最高峰と教えられた私に、「六つ星」はもはや理解の範囲外。働いている人さえセレブに見えてしまった。1泊いくらするんだろう……。
と、ホテルの話はここまでにして。
 


この日ここで行われたのは、「CLUB HARIE(クラブハリエ)」の新作発表会。
お恥ずかしい話、「クラブハリエ」が何なのかさえ知らなかった私は調べてみてびっくり。アノ和菓子舗「たねや」の洋菓子部門として、1951(昭和26)年に産声を上げたブランドだったとは。

もともと「たねや」は、1872(明治5)年に滋賀県近江八幡で創業。
1905(明治38)年、偶然たねやの近くに住んでいたアメリカ人建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズさん(「メンソレータム(現:メンターム)」を広く世に広めた実業家でもあるお方!)との親しい近所づきあいの中で、クラシックなアメリカン洋菓子に触れ、ヴォーリズさんの勧めで洋菓子を作り始めたのが、「クラブハリエ」のはじまりだという。


この日はバレンタインデーに向けた限定新商品の発表会&賞味会ということで、各自着席のスタイル。テーブルセッティングがしっかりなされ、着席するやいなや、流れるように飲み物をサービスされた。
ホテルクオリティのおもてなしに感動すると同時に、このような発表会は初めてだという、クラブハリエ側の気合いもビシバシ感じる。



会が始まり、たねやの次男として生まれ、現在株式会社クラブハリエの代表取締役社長兼グランシェフ・山本隆夫氏のスピーチがあった。

仕事が楽そうだなと軽い気持ちで今の仕事を始めたこと。鎌倉で修業をした後地元へ戻り、鎌倉で覚えた技術をそのまま表現したが、まったく売れなくて挫折したこと(都会的なハイセンスなものは、田舎では売れなかった)。小さい頃は、工場が遊び場であったこと。
たねややクラブハリエの歴史に始まり、幼少の頃の思い出、これからの夢までをアツく語っていたが、一番熱を帯びていたのは、バームクーヘンを語った時だった。

「小さい頃は、お菓子はもういい! と飽き飽きしていました。
でも、バームクーヘンだけは違っていたんです」

修業先から戻って、さぁ何かしようと考えた時、バームクーヘン一本で挑戦しようと思ったのは、自然の流れだったのかもしれないな。この話を聞いて、そう思った。

ここでタイミングよく、新商品「ショコラバーム」が登場。

ジェイアール名古屋タカシマヤ「2013アムール・デュ・ショコラ」(国内外の160ブランド以上が出店し、出店ブランド数最大級を誇るバレンタイン催事)にて、1万個限定で販売されるショコラバームは、5年前から開発に取り組み、改良に改良を重ね、ようやく完成にこぎ着けた。

「チョコレートを入れた生地を焼くのは、実は非常に難しいんです。単にカカオ味、チョコレート味という仕上がりにはしたくなかった。バームクーヘンを知り尽くした自分たちだからできたと思います」(山本シェフ)

有機栽培カカオで作られたフランス産チョコレートを生地に使い、しっとり柔らかく焼き上げたバームクーヘンの中心に、ビターで濃厚なガナッシュが流し込まれている。少し温めるとガナッシュが溶けてソース状になり、ゴージャス感たっぷり。(この日は生クリームを添えた特別仕様)
生地に混ぜ込み、さらに焼き上げているはずなのに、チョコレートの風味が高く、ガナッシュをとろんとつければさらに香りが豊かに。ガナッシュはソースとしての役割、「甘さ」はもちろん、後味にほのかな苦みが残る。
名古屋でしか購入できないのが残念。近々で名古屋に行く人いないかな……なんて考えてしまった。



乾杯の後は、試食ラッシュ。
「ピクシー」は、2010年WPTC(=World Pastry Team Championship/ワールド ペストリー チーム チャンピオンシップ。二年に1度アメリカで開催されている製菓の国際コンクール) で、日本が初優勝した時の作品。
ピスタチオにホワイトチョコレートを加えたムースの中に、イチゴのクリームとジュレが層状に重なっている。
 ピスタチオはカシスやフランボワーズとの組み合わせをよく目にするけれど、このケーキを食べて、「カシスやフランボワーズじゃない。イチゴだ!」と、しっくり舌になじんだ。きっと、ずーっと食べ親しんできたイチゴの甘酸っぱさに“和”の安心感を感じたのだと思う。カシスやフランボワーズもすでにメジャーな食材だけれど、日本人が勝手知ったる甘酸っぱさではないんだよなぁ。100%個人的見解だけれど。
ミルキーなイチゴクリームだけでなく、クリームより甘みも酸味も凝縮されたジュレをいっしょに忍ばせているのも、技あり。




3種のチョコレートを楽しめるこの「ホロスコープ」も、2012年WPTC優勝作品だそう。
左から、爽やかにユズが香り、 サクサクとした食感が楽しめる「キャンサー」。ほろ苦いコーヒーとミルクチョコレートが溶け合う「ピスケス」。ショウガを隠し味に、甘酸っぱいトロピカルフルーツのキャラメルを包んだ「ヴァーゴ」。





この年の大会テーマは「ホロスコープ(星占い)」。
見えない部分にまで、シェフの気配りが見える。
 会場の外では、焼きたてのバームクーヘンや、ロールケーキをその場で切り出してサービス。
「昔はバームクーヘンといえば、結婚式の引き出物などによく使われ、日保ちを考えてしっかり焼くためパサパサのものが主流でした。正直、おいしいと感じる物ではなかったです」(山本シェフ)

そんな世の中のイメージを払拭し、ブームの火付け役になったとも言われるのが、 クラブハリエの顔・バームクーヘン。その名の由来でもある、「バウム(年輪)」が薄いのがクラブハリエの特徴で、そこが柔らかくしっとりとした食感にもつながっている。焼きたてバームクーヘンを食べたのは初めてだったが、フォークを入れただけでわかる弾力! フォークで切った断面が低反発枕のように沈み、ゆ〜っくり元の位置に戻っていく柔らかさったら。(写真でうまく撮れなかったのが悔やまれる!)ふんわり生地が口の中でほどけていき、周りをコーティングしているフォンダン(砂糖衣)も、しっとり感とシャリシャリ感両方を味わえる質感……(恍惚)。
焼きたてバームクーヘン、感激でした!


 「Pour PaPa」は、ROLL-1(ロールワン)グランプリ(日本一のロールケーキを決めるコンテスト)で優勝したケーキ。中嶋万規子シェフが、父の日のプレゼント用にと考案したそうで、カットする前のロールケーキには、ネクタイをモチーフにしたチョコレートが飾られていた。
チョコレートをしっかり感じる生地自体がおいしかったが、バナナの濃い風味とセミドライフルーツのような食感のヒミツを知りたくなり、カッティングサービス中の中嶋シェフを直撃。
「バナナをソテーし、ジャムのようにちょっと崩れた状態のものを巻き込みました。甘ったるくしたくなかったので、極力砂糖は加えずに」(中嶋シェフ)
ソテーして水分が蒸発したことで、ちょっともっちりとした食感になっていたのか。なるほど。


 この写真ではあまり伝わらないが、直径5cmの大きな大きな「マカロン」は、クラブハリエが手がけるフランス菓子専門店「Occitanial(オクシタニアル)」より。
MOF(フランス国家最高職人)の称号を持つステファン・トレアン氏が監修する。手前から時計回りに、ヴァニラ、ピスタチオ、フランボア。




「いろいろ食べましたが、うちのが一番おいしいです、ぶっちゃけ」(山本シェフ)

甘く香るバニラ、ピスタチオのコクと香ばしさ。ひと口食べれば、いい原材料を使っているのがすぐさまわかる。一番びっくりしたのはフランボア。フランボワーズのジュレのようなジャムのようなアクセントが、中央に潜んでいた。こんなの初めて。



 

ほかにも会場内では、WPTC2012チームJAPANのメンバーとしてコンテストに出場し、見事2連覇優勝をした、チョコレートピエス担当の小野林範シェフ(左)と、シュガーピエス担当の妹尾徹也シェフ(右)によるデモンストレーションがあった。間近で見られる職人芸に釘づけ。



チョコレートに描かれた惑星はすべて食用パウダーで手描き。地球を模した球状のチョコレートは、型から取り出す技の難易度が高く、世界でもまだ3人しか成功していないとか。(その3人すべてが、クラブハリエの職人というのも驚き)




飴はシリコンで型を作るところからの作業と聞き、気が遠くなった。よ〜く見ると、飴の中には大小の気泡が。その気泡の大きさや数が、うまく濃淡を現していた。


また、「バームクーヘンパッケージコレクション」と題し、季節やイベントごとに店頭に並んできた歴代のパッケージや、ミュージシャンやイラストレーターとコラボレーションした限定パッケージが展示されていた。「このボックスをコレクションする人が増えてほしい」。これも、山本シェフの夢のひとつと語っていた。







 氣志團メンバーのイメージカラーを歌舞伎の緞帳風にデザイン(前列中央)。

UVERworldのメンバー自身が初プロデュースしたオリジナルパッケージ(前列右)。
T.M.Revolutionデビュー15周年を締めくくる公演のために製作した、コラボレーションパッケージ(前列左)。








拠点が滋賀県にあるブランドゆえ、都内で味わえるものは限られている。
けれど、おいそれと手に入らないじれったさがクラブハリエの戦略で、
 私はすでにその手に落ちているのかも。まんまと。

    左から、妹尾徹也シェフ、山本隆夫グランシェフ、小野林範シェフ


CLUB HARIE

teamまめ/阿部真奈美)
※写真の撮影、掲載は許可をいただいています。





0 件のコメント:

コメントを投稿