2013年2月20日水曜日

国指定特別名勝・兼六園で感じる加賀百万石ロマン


石川県金沢市にある兼六園を訪れた。水戸偕楽園や、岡山後楽園と並ぶ日本三大名園のひとつで、江戸時代に造られた有名な大名庭園だ。

名庭めぐりなんて地味な趣味ね、なんてお思いだろうか。
ところがどっこい、一見静かで落ち着いたこの場所には、一時代を築いた猛者たちの数多のロマンがぎゅっと詰まっているのだ。
女性というものはギャップに弱い、と言うけれど、それはなにも恋愛に限ったことじゃない。これらのお庭をあえて擬人化するなら、きれいで品がよくて、物静かなイメージ。なのに、そんな場所で、かつて猛々しい男たちがギトギトした野望を思い描いたりもしたのだ。
んー、ドキドキする!

ここ兼六園は、5代藩主の前田綱紀以降、加賀百万石の歴代藩主が代々想いを引き継ぎながら、長い年月をかけて完成させた。中央には、大海に見立てた大きな池。そこに、不老不死の神仙人が住むという中島をこしらえる。
加賀藩が未来永劫、ずっとずっとずーっと繁栄し続けますように。そんな願いが込められているに違いない。


園内からは市街地を見渡すことができる。人々を上から見下ろして、彼らは一体どんなことを考えていたのだろう。
大名よろしく心静かに、しかしその気分に相反するような果てしない野望を練ってみたい。なんてちらっと思ってみても、小者なわたしにはなにも浮かんでこなかった。むー。



兼六園は、とにかく広い。
敷地内には、前述の大きな池をぐるりと囲むように、名木を配した木立ちや、りっぱな築山がある。起伏に富んだ回遊式庭園をぐるぐる歩いていると、その場所、場所によって見える景色が違ってくるからおもしろい。
そのスケールたるや、さすが加賀百万石を取り仕切る前田家。

先ほどから、加賀百万石、加賀百万石と連呼しているけれど、これがどのくらいすごいかと言うと、当時の大名のなかで、いちばんたくさん石高を持っていた(儲かっていた)のが、この前田さん。外様なのに。
天下の徳川家からお嫁をもらったり、親戚関係にあったので、身分的には自分より上にあるよその大名たちよりはるかに優遇されていたらしい。

さて、話を現在に戻そう。
わたしが今回、金沢を訪れたのは、先日の2月8日。金沢では年に一度訪れるか、訪れないかという大寒波にあたり、街は吹雪いていた。
その晴れ間を縫って訪れた兼六園は、一面の雪景色で、息をのむ美しさ。
冬の風物詩「雪吊り」も見事で、胸が高鳴り、興奮しすぎて、ばかみたいに「すごい! きれい! きれい!」と叫ぶしかできなかった。



ごてごてと飾り立てるのではなく、引き算することで追求する美しさ。憧れる。
いつか、そんな生き方をしてみたいのだけれど、その前に捨てるほど財も才能も持っていないという。ああ、わたしの話なんてどうでもいい。知ったこっちゃない。


園内には、たくさんの観光客が訪れていた。あちこちで記念撮影が行われている。

見所もいっぱい。


「雁行(がんこう)橋」は、雁が列になって夕空を飛んでいくというイメージだそう。
別名を「亀甲橋」といい、この橋を渡ると長生きすると言われている。老朽化のため立ち入り禁止になっていたので、渡れなかったけど。


日本武尊さんもいらした。正式には「明治紀念之標」。
西南戦争で戦死した石川県出身の軍人さんたちの慰霊碑で、明治13年(1880)、銅像としては日本ではじめて建てられたものだと言われている。


松尾芭蕉の句碑。芭蕉さんは、本当に全国どこにでも行っているのだな。
石の表面が摩耗して、頭の文字「あ」しか読み取れないけれど、元禄2年(1689)、あの『奥の細道』の旅中に、芭蕉さんは金沢でこんな句を詠んだ。

「あかあかと 日は難面(つれなく)も 秋の風」

字面だけをそのまま受け取ると、真っ赤な太陽が照りつけ、まだ終わりそうにない厳しい残暑のなか、ふと秋風を感じる瞬間があった、という内容。
旅先でテンションが上がっている反面、どこか寂しそうな表情をする芭蕉さんが思い浮かぶ、なんてね。


平成に入り、復元された「舟之御亭(ふなのおちん)」。そもそも5代藩主の綱紀が造らせた東屋で、その本物は明治時代に取り壊されてしまったらしい。
例年だと梅が咲き始める時期で、ここからそんな景色も見えるはずなのだけど。

兼六園は年に何度か、日が暮れてから無料開放される。
この日、ライトアップされて、昼間とはまったく違う美しさに満ちていた。池の水面に、景色が映る。もはや言葉が出ない。出るのはため息ばかり。

 
色っぽい。昼間はあんなに品がよかったのに、夜はこんなに色っぽい。
実に、実にすてきな庭園だった。
 
兼六園だけでなく、金沢という街がすてきだった。四季折々、また違う一面を見せてくれるのだろうな。
必ず再訪します! と、前田利家さんとも約束。
 

今度金沢を訪れるときは、金沢城公園のほうもじっくり回ってみたい。
 
 
(teamまめ/信藤舞子)