2013年9月3日火曜日

ドイツ生まれの楽器、バンドネオンが好き!



セミの大合唱が遠のいて、夜更けにはコオロギが歌う秋のはじまり。
秋だなあと思った瞬間、ある楽器の音色が恋しくなった。

秋が似合う、月が似合う、ワインが似合う楽器、、、、バンドネオン。

アコーディオンのような蛇腹の楽器で、不思議な音を奏でる。
聴いていると、懐かしい風景が浮かんだり、想像力をかきたてられたり、
仕事のひらめきがあったりする。
この魅力、はて? 何だろう。バンドネオンのことをもっと知りたい!
そんな思いから、バンドネオン奏者の大久保かおりさんの仕事場を訪ねた。

これが、バンドネオン。


アルゼンチンタンゴで知られるが、生まれ故郷は東ドイツで、
ハインリッヒ・バンドさんが1847年に発明した。
自分の名前をつけちゃったバンドさん、えっへん&おっほんな心境だったのかも。
おちゃめですね〜。
   
いきなりバンドネオンを発明したのではなく、
もとになる楽器があったとさ。それが、これ。コンサーティーナだ。






六角形で、小さくて、ボタンの数も10個。最も古い蛇腹楽器と言われ、アコーディオンの原形でもある。


コンサーティーナは、3つのボタンを押さえると響きのいい和音になるのが特徴。
和音はバンドネオンのボタン中心部に採用されていて、この和音ボタンを中心に、どんどん数を増やして、音数を広げている。













どのくらい増えたかというと、高い音の右側が38個、低い音の左側が33個。
しかしながら、バンドさんはとんでもないことをしでかしてくれた。

たくさん増えたボタンの並びが、まったくバラバラ!
つまり、ドレミファ順でもなく、他の何の順でもなく、配置の規則が皆無なのだ。

合理的で几帳面な気質のお国柄のお方が、何故こんなにぐちゃぐちゃに並べたの!?
しかも、蛇腹を押す時と引く時で、同じボタンで音が変わる!
 説明を聞いているだけで頭がこんがらがってくる。



                   大久保さんの見解はこうだ。

「誰でもが使えるような楽器にしないぞって思ったのかも、、、」


なるほど。
やっぱり、バンドさん、おちゃめ〜。

「手の感覚で覚えました。見るとわからなくなってしまうのですよ」





ボタンは、ボディは象牙で、指で押さえる部分は貝。
数字が記されているが、こちらも意味不明とのこと。バンドさ〜ん。

習得するにはハードルが高いが、音、音量は広く深い。
例えばピアノでは離れた音(上写真のように)も、
片手でその音域を掴むことができる。
また、不思議な並びゆえ、他の楽器では出せないような音も生まれる。

大久保さん曰く、
「音に質感があって、“表面はざらざらしていて、中はとろっとしているお菓子”のその感じをそのまま表現できるのです」

聴いていて風景が浮かんだり、ひらめきがあったりするのは、音の質感のせいかも。


「では、中をお見せしましょうか?」
おもむろにボタン面を、パカッと開けてくださいました!


外見の素朴な印象とはまったく違って、中は繊細で色白、美しい。


ボタンを押すと、リードに空気が送られ、振動して音が出るしくみ。
オルガンやアコーディオン、笙と同じで、フリーリード楽器に分類される。
右左合わせて3オクターブあり、真ん中の1オクターブが重なっている。



バンドさんが発明した頃は、ドイツの小さな教会で、オルガンの代わりに使われていた。
時は流れて、ヨーロッパから海を渡る移民たちの手荷物に、バンドネオンが、、、
いよいよアルゼンチンに上陸だ!
折しもブエノスアイレス〜ラプラタ川周辺でアルゼンチンタンゴが誕生した頃だった。

「私の想像なのですが、ヨーロッパから渡ったバンドネオン弾きが、知らない国の音楽の輪に入りたくて、思いきってタンゴ風に演奏してみたんじゃないでしょうか。そしたら、いいぞいいぞと褒められて、わーーーっ!と盛り上がったのではないかなと思うのです」と、大久保さん。

またたく間にバンドネオンは大流行り。アルゼンチンに製造工場がどんどん出来て、アルゼンチンタンゴに欠かせない楽器になったというわけなのだ。


さて、大久保かおりさんとバンドネオンとの出会いは、1995年。出会った場所は映画館。『無伴奏のシャコンヌ』(1994年/仏)の1シーンに、地下鉄でバンドネオン弾きが演奏している映像に釘付けになった。
「これは何? と思ったのです。音もおもしろかったけれど、蛇腹の動きがおもしろくて。演奏していてこんなに形状が変わる楽器があるなんて!」
この衝撃が、大久保さんをバンドネオンに導いたのだ。


          たとえばこんな風に形状が変化するのです〜



これは、1930年生まれ。閉じているとコンパクト。


重量はおよそ6kg。


じゃ〜ん じゃじゃ〜ん




タンゴの時は開いて閉じて、膝の上でスタッカートみたいに強くリズムをきる。



まさに、じゃばら〜



ああ、音をお届けできないのが残念♪


バンドさんが発明して、ドイツからブエノスアイレスを経て、戦後の日本へ。
海を渡って旅してやってきたバンドネオン。ますます好きになちゃった! 


大久保さん、ありがとうございました。
生音を聴きにライブに来てね♪
              ソロだけでなくデュオやバンドでライブ活動を展開中。
           大久保かおりさんの公式HP:http://kaoneon.com/



(松井一恵/team まめ)