2013年6月18日火曜日

板橋に現る行商人に、一日追っかけ体験

昨年末『散歩の達人2月号(板橋特集)』の取材で出合った、魚料理の店「さかなや ST」。
取材をお願いする電話で聞いた、店主の「僕、行商やってるんです」の言葉がその時から気になっていた。
数日後取材に出向き、どうやら「行商」は店がある板橋から十条周辺で週3日行っている、ということはわかった……が、
「行商」ってそもそもどういう経緯で?
どんな魚を、どんなものに積んでるんだ?
お客さんっているのか?(ごめんなさい!)
だめだ、やっぱり気になる。
そこで店主の中西正勝さんにお願いをし、行商に一日同行させていただくことにした。
※同行したのは今年1月。そのため、まったく季節感のない写真であることをお許しください。


まず簡単に、中西さんがお店をもつことになった話から。

もともと魚は見るのも食べるのも大好きだった中西少年。三浦半島に住む祖父が魚をさばく姿に憧れ、「自分もいつか魚をさばけるようになりたい」とずっと思っていた。
時は流れ、中西青年が選んだ職業はなぜか公務員。しかし数年で自ら辞め、その後はフリーター生活を続けながら、外国を旅していたという。
その間も心の奥底で「料理人になりたい」願望は成長し続け、ついに26歳で料理人になることを決意。年齢的に遅いスタートだったため、簡単には修業先がみつからなかったが、なんとか受け入れてくれたすっぽん料理店で本格的に料理人の道を歩み始めた。
そして修業を始めて1年ちょっと経ったある日、「さかなや ST」の前身の店のオーナ―に「ここで店をやってみない?」と声をかけられたのだ。
和食の大切な心得を学べるすっぽん料理店が、物足りなかったわけではないけれど、日頃から「もっともっと魚に触りたい!」と思っていたため、すぐさますっぽん料理店を辞め、開店の準備を始める。
声をかけてくれたオーナ―が魚屋だったため、いっしょに築地についていき、魚の種類や目利き、仕入れなど、築地の業者が誰も相手をしてくれないところから必死に勉強した。

と、ここまでが「さかなや ST」開業までの経緯。「簡単に」とは言ったものの、語り出すとけっこう長い。そして書き出して改めて、中西さんの瞬発力、行動力に驚かされる。


店を始めた中西さんが次に思ったのは、「店の周囲をもっと知りたい」ということ。住まいは板橋区外だったため、どんな街なのかを純粋に知りたかった。

だから行商を始めた。
きっかけは、意外なほどシンプルだったのだ。もちろんその先には、「いろんな人にもっと魚を知ってもらいたい。食べてもらいたい」という想いもあっただろうけど。
「さかなや ST」を始めるきっかけをくれたオーナ―の魚屋「魚栄」に籍を置くカタチで、行商をスタートさせた。


ふぅ、長い前置きはここまでにして。
ようやくここからが、行商人・中西正勝さんとの一日のはじまりはじまり。


9時50分に、中西さんの行商の拠点である「魚栄」に集合。
もちろん中西さんは、すでに築地に行き、今日の魚を仕入れてきた後だ。
前日も当然「さかなやST」は24時までの営業だったので、睡眠時間は数時間。会ってすぐ頭が下がる。














「魚栄」は、私が小さい頃町にあった魚屋さん、そのもの。
大きなケースに鮮魚、刺身、干物などの加工品がジャンルごとに陳列され、ひと声かければ「カツオを○人分の刺身にして」とか、「イカ、塩辛用に切って」なんて言えちゃうような。
初めてだったのに、無性に懐かしかったなぁ。





なんて私がたそがれている間に、中西さんは黙々と行商の準備を進めていた。


この日は「少なめ」と言っていたけれど、それでも小さなリヤカーはすぐいっぱいに。行商用に仕入れる商品は、思いっきり旬魚! というよりは、どの家庭でも定番と言われるようなもの、日保ちのきくものが基本だそうで、この日は鮭や干物、イカ、ワカメ、しらす、ちりめんじゃこ、しじみ、練り物などが積まれていた。もちろん、要望があれば尾頭付きの鯛やウニも仕入れる。
ちなみにこの日は、活車海老がそのポジションだったような。







10時過ぎに、板橋区滝野川の「魚栄」を出発!



 

覚えているでしょうか? 今年の成人の日の大雪を。

道路に残っているのは、まさにその残雪。

中西さんには行商の基本ルートがあり、洋服屋や幼稚園、八百屋などのご厚意で、立ち寄り処としての場所を提供してくれている方々がいる。
それとは別に、途中途中で回るお得意様も。
行商をしていることを知った「さかなや ST」のお客さんが、「うちにも回ってよ」とお得意様になったり、さらにそのお友だちがお得意様になったりと、今も徐々に増加中。
行商の朝は「今日は○○○と□□□、△△△、☆☆☆も用意しています」というメールを送って、あらかじめお知らせをするのも、中西さんの細やかなサービスだ。

新板橋駅付近から板橋区役所方面へ向かいながら、




お客さん宅の玄関先で、この日初の開店。
荷物を引いていたリヤカーに板を渡せば、簡易の陳列棚にもなる。

客「このイカ、刺身でもいける?」
中「はい、大丈夫ですよ」
客「あ、ほんと。なら、いただこうかな」

中「今日はこのメヌケって白身も旨いですよ、脂がのってて」

客「どうやって食べたらいいの?」
中「煮付けてもいいし、バターでソテーしてもいいっスよ」
客「じゃ、それ」

こんな調子で、どんどんお客さんの献立ができあがっていく。

時にはお客さんのマンションの前で到着コールをし、








時には洋服屋のガレージを拝借して店を広げ(板橋区栄町付近)、


昼ご飯返上でずんずん(板橋区本町付近)









ひたすらずんずん(中板橋商店街付近)進み、









最後に店を開いたのは、北区上十条の教会。












発泡スチロールに約10箱あった商品が、生ものは完売し、最後は干物や加工品のみに。

















最高気温6度だったこの日は、歩いている最中も終始寒かったが、再び板橋に戻る頃には、こんなに澄んだ青空が広がっていた。










「魚栄」に戻ったのは、確か15時前。
板橋〜十条〜板橋と、約5時間歩いたことになる。

出発前のリヤカーの重量を量ればよかったとか、どれだけ歩いたかを万歩計で測ればよかったとか(2万歩以上歩いた感覚はあり)、後から「こうすりゃよかったなー」と思うことが浮かんできたが、それは私の勝手な都合なわけで。
今の時代に行商人の姿を見られたことに、とにかく感謝感謝。
「スーパーじゃなくて、魚屋で魚を買いたいの」というお客さんの言葉に、中西さんが行商を始めたもう一つの理由、続けられる理由があるような気がした。


図々しいお願いを快く受け入れてくださった中西さん、
本当にありがとうございました。
雨降る憂うつな梅雨も、うだるような酷暑も、
変わらぬ脚力でずんずん歩いてください!


中西さんと「魚栄」のみなさん

★「魚栄水産」
北区滝野川5-14-10
03-3916-7661










中西さんの店「さかなや ST」
「S(さかな)T(たのしい)」という、店名の裏話が愉快。
鮮魚だけでなく、通好みな日本酒も自慢だが、ほとんどの日本酒が1本しか仕入れないため、気になったら即飲みが後悔しない唯一の方法。


★「さかなや ST」
板橋区板橋4-4-3 片岡ビル1F
☎03-3964-7470
17:00〜24:00、日17:15〜23 :00
http://ameblo.jp/st-nakanishi/

※行商は火・木・金







(阿部真奈美/teamまめ)






0 件のコメント:

コメントを投稿