2月、とんでもないニュースが目に飛び込んできた。
「アンヂェラス」3月17日で閉店。
ええええーーーー? うそでしょ?
口から声が出るほどの、衝撃だった。
アンヂェラスは戦後まだ間もない昭和21年に創業した洋菓子喫茶店。
物資がないなかでも「甘いものをみんなで食べてほしい」という想いで、小屋のような建物からはじめ、昭和29年ごろ、今の建物が建てられたという。
白壁に木をあしらったチェダー調が外観がしゃれている。
中に入れば、ケーキを並べるショーケースのあたりは礼拝堂のごとし。無造作にいくつもの電球が灯されている姿はまるで、天使がとびはねるよう。
手すりに設けられた、ハトのようにもチューリップのようにも見える目隠しも愛らしい。
柱の飾り、オーダメイドの木製椅子など、初代オーナー夫妻のこだわりがすみずみまで行き届いていて、ときめくばかりだ。
階段下の隠れ席、窓辺席、屋根裏のような2階席、広々とした3階席と、席ごとに風情が異なるのも魅力だ。
この店は、時代劇・時代小説ファンにはおなじみ、浅草生まれの食いしん坊作家、池波正太郎氏がこよなく愛した店としても知られている。一度、池波ファンの友人を連れて出かけたら、もうソワソワ、ワクワクしっぱなしで、店を出てもしばらく夢見心地の顔をしてたっけ。
ほかにも、稀代の漫画家・手塚治氏のサインなども飾られていたりする。実は、初代オーナーが飲兵衛で、ウイスキーやハイボール、ジンフィズなど、お酒もメニューに上り、夜はサロンとして、文化人たちがこぞって酒を飲みに集っていたという。
あぁ、そんな時代に通っていたかった!
そんななか、当時はまだ珍しかった水出しアイスコーヒー=ダッチコーヒーに、初代が自家製梅酒を加えて飲んでいたら、池波先生にめざとく見つかったという。それを飲ませてもらった池波先生が感嘆。ほどなくして「梅ダッチコーヒー」がメニューに登場し、名物と呼ばれるようになったとか。
梅酒×コーヒーってどうよ? と訝しんで飲んでみた身としては、これがイケるから驚きだ。そして、梅×アイスティもあり、こちらは爽やかな香りが増幅される。
店の名物は、ほかにも枚挙にいとまがないが、店名を冠ったアンヂェラスはやはり忘れてならないものだろう。
バタークリームというと重く、べたっとした印象があったが、この店でそんな印象はがらりと変わった。
なんて軽くてなめらかな舌触りだろう。
季節限定のアンヂェラスもあり、3月は例年、さくらが登場する。
ふかふかのバナナボート、洋酒をたっぷり染み込ませたサバリンなど、洋菓子はどれも、端正でオーソドックスな見目麗しさ。
4種のゼリーが満載のフルーツポンチに、パフェ、アイスクリームなどもあり、いつか挑戦するぞ、と思っていた。
老朽化のために閉店し、現在のところ、復活はないとのこと。
この味、この情景を心に刻むなら、今しかない!
(佐藤さゆり/teamまめ)
0 件のコメント:
コメントを投稿