好きで通い続けている酒場のことを書く。
三鷹駅北口徒歩1分、大衆酒場『婆娑羅』。
開業40余年の界隈大御所だ。
帰り道に通るので、ついつい寄ってしまう。
2020年4月。
早々に営業を自粛し、5月中旬に再開。
席数を減らして、しっかり対策をして客を迎え入れてくれた。
ソーシャルディスタンスを大事にするから、
いつもの半分の客数で満席になるゆえ、入れない人が続出する。
「すみません、席数減らして営業していて、今いっぱいなんです」
「すみません、3人はちょっと無理ですね。本当にごめんなさい」
「すみません、今はだめだ〜。空いたらお電話しましょうか?」
詫びる店主とスタッフを見るのは辛かった。
年末年始は「積極的休業」と称して冬休みを1月12日までと決めた。
が、再び緊急事態宣言。
2021年、結局一度も開店することなく、積極的休業が続いている。
年末の営業ラスト日に訪ねたら、
店先に、滑らかな白肌の大根が揺れていた。
店主・大澤さんが、毎年初冬に沢庵漬を仕込むのだ。
馴染み客が首を長くして待つ名物。
もちろん今シーズンも、恒例の手仕事は、丁寧に丁寧になされた。
大根は、世間のニュースとは無縁の時間を
じっくりと生き、沢庵漬は完成した。
Instagramを眺めていると、こんなメッセージが飛び込んできた。
漬け上がり、出番を待つ沢庵漬が
店頭にてんこ盛りなっているではないか。
写真を見た途端、口の中に婆娑羅の沢庵漬の味が広がり
いてもたってもいられず駆けつけた。
入り口には、婆娑羅恒例の「伝言ノート」が置かれている。
お客がメッセージを書けるノートで、
4年前に店主が骨折で休業した際に誕生した
手書きのコミュニケーションツールだ。
「いただきます」
「ありがとうございます」
「再開を待ってます」
沢庵漬を手にした客が、ひと言メッセージを残している。
残り福をいただいた。
Instagramの写真を見て蘇った味の記憶は、
いやはやなんともだらしないものだった。
実際に味わった沢庵漬は、
瞬間にガツンと刺激する力強い味。
噛み締めながら泣けてきた。
泣けるほどの沢庵漬だ
いつものコの字のカウンターで頬張りたかったと、
メッセージを書いた。
2021年の沢庵漬に感謝を込めて。
松井一恵
婆娑羅のホームページはこちら → http://www10.plala.or.jp/basara/