そこから山あいへと車を走らせ、いくつもの里を抜けると、赤茶色の瓦が粋なお屋敷がひょっこり姿を現す。
ここは「元仲田邸くらやしき」。
かつては酒造業をも営んだ、江戸時代より続く庄屋さんだ。
建物は明治中期建築で、数寄屋風の長屋門、漆喰のなまこ壁に目を奪われる蔵などが立ち並ぶ。
しかし、どこにも宿泊案内は記されていない。
ここ、だよな? と恐る恐る入っていくと、回廊のように長屋門を抜けて、主屋にたどりつく。
障子手前には「本日の見学は終了いたしました」の文字が掲げられ、ますます不安は募るものの、とりあえず、インタホーンを押してみると......。
入れました。
美しき瓦は塩田瓦。
石州瓦の職人さんたちが、隣町の吹屋(国の重要伝統的建造物群保存地区)に江戸末期にやってきた際、地元の土が良質なのを知り、技術を伝えたという艶っぽい瓦だ。
そして邸内は、襖の向こうに二階へ上がる階段が隠されていたり、欄間が見事だったり。
渡り廊下をつたっていくと、新設した宿部門に到着。
お待ちかねの夕食は、地元産食材のオンパレード。
前菜3種に、郷土料理のたかきびのがんも、ヤマメの塩焼き、手作りの刺身こんにゃく、抹茶そばに、うどん仕立ての小鍋......。
コシヒカリのツヤツヤ炊きたてご飯に、山菜や芋の天ぷら、デザートのお団子などなど。あぁ、お腹がはちきれます!
「これ、地元の食材ですか」
「そうですよー。食材も私たちも、みんな地元で採れたのよ〜」
そう。米も野菜も山菜も、地元の豊かな実り。
ぷるんぷるんの刺身こんにゃくや、カリッとしながらももっちりしたがんも、
「今日採れたから」と出してくれた、たらの実の天ぷらなど、
素材の旨味を生かした、お母さんたちの手作り料理は、滋味深い味ぞろいで、
あぁ、酒が進んで仕方なし。
聞けば、仲田家7代目が市に寄贈したのを機に、農村型リゾートにし、
近所のおばちゃん8人が交代で、宿を切り盛りしているとのこと。
「お風呂、わきましたよ〜」と声をかけてもらい、ゆったり湯に浸かったら、
ふかふかお布団でぐっすり眠ったのでした。
こんな粋な風情ながら、ビジネスホテル並みのお値段にまたまたびっくり!
驚くなかれ、
宿泊:3000円(税別)
夕食:3000円〜(税別)
朝食:500円(税別)
ありがたくて涙が出そうですよ、おっかさん。
主屋の土間+座敷は、時折、コンサートやイベントも開かれるそう。
「やりたいって人がいると、お貸ししているの」
そんな時にお邪魔するのも、また一興ですぞ。
(teamまめ/佐藤さゆり)